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2014/02/27

『叫びと祈り/梓崎優』 感想

叫びと祈り (創元推理文庫)叫びと祈り (創元推理文庫)
(2013/11/28)
梓崎 優

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感情を取り戻せると巷で話題の『叫びと祈り』。
『鏡姉妹の飛ぶ教室』で感情を蹂躙され、続いて『密室殺人ゲーム2.0』で完全に人間的な感情を失ってしまったのでそのリハビリのために読みました。

結果は成功でした。
「祈り」を読んだあと、私の心には暖かな風が吹き、桜が舞い始めました。感情が、戻ってきたのです。


それでは続きからネタバレありの感想です。

短めに。


五篇の中では「砂漠を走る船の道」「叫び」が好きでした。
どちらも「殺人を起こす必要がない(または起こすと不利益が生じる)状況でどうして殺人が?」という謎が分かりやすい形で提示されていて謎解きも取り組みやすかったですし、明かされる異世界の論理にも納得がいったからです。

ならば他の三篇は詰まらなかったのか? というと、そうではありません。
内容も勿論面白かったですが、この短編集は一篇一篇を独立して楽しむというより、五篇を通して読むことに意味があると思います。


主人公、そして探偵役を務める斉木は、「人と人は理解し合うことができる」という信念を持って異国の人々と交流しています。ですが、「砂漠を走る船の道」「凍れるルーシー」「叫び」においてその信念は打ち砕かれることになってしまいます。

「砂漠を走る船の道」では、メチャボと心を通わせることにより若干救われた感はありましたが、「凍れるルーシー」では斉木の気持ちがスコーニャに届くことはありませんでした。そして、「叫び」では言葉すら通じない。


「あなたは何も分かっていない」


斉木は叫ぶ。アシュリーは叫ぶ。
その全ての言葉の意味を、わずかたりともアリミリは理解しない。



斉木の謎解きは、犯人を糾弾するためのものではなく、犯人という一人の異国人を理解するためのものであると感じました。(「白い巨人」からもその姿勢が分かります)
それなのに、その結果もたらされるものは心の通じ合いなどでは決してなくむしろそれと真逆のものでした。
謎を解いても解いても浮かび上がってくるものは圧倒的な人と人、また国と国の断絶のみ……その事実は斉木を、そして斉木と同じ視点で物語を読む私たちをどれほど絶望させることか。

ですから、「祈り」で斉木が記憶の復活を拒んだ状態になることは自然なことだと思います。そうでなくてはおかしい。この物語の意味がない。「「祈り」は蛇足」みたいな感想をいくつか見ましたが、そんなことはないでしょう。

絶望、そして、そこからの救済。それを描くことにこそ意味があると思います。


「お前が旅人なら、同じところで立ち止まってちゃいけないんじゃないか」



友人たちの言葉、祈りにより、斉木は現実の音を取り戻していく。雪だと思っていた景色は実は桜だった。
「同じ景色でも、見る者によって、見え方は違う」。この言葉はこの作品に共通していることです。
記憶を失った斉木が自分自身の信念から出た言葉で立ち直るのも、また良い。
うーーん、良い。



という訳で私の感情も救済された『叫びと祈り』でした。
『放課後探偵団』に収録されている「スプリング・ハズ・カム」も非常に好みでしたし、『リバーサイド・チルドレン』も近いうちに読んでみたいと思います。

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梓崎優 | Comments(2) | Trackback(0)
Comment
No title
初めてのコメント失礼します。
この本を読んだのはだいぶ前だったのですが、あまよさんの感想を読んで、心の奥にしまってあった私のこの本にまつわる感情が呼び起されました。
私も、「祈り」は蛇足だとは思いません。確かに物語のバランスが多少悪くなっているとは思いましたが、この一篇は作者自身がこめた「祈り」そのものなのではないかと思いました。

「砂漠を走る船の道」「凍れるルーシー」が特に好きです。この本はミステリとして魅力的なだけでなく、絵画を鑑賞しているような静かな表現が素敵だと思いました。
リバーサイド・チルドレン、私も読みたいと思っています。
もしお読みになりましたら、感想をお聞きしてみたいです。

夜船(@ice39macaron)

Re: No title
コメント有難うございます。

> 私も、「祈り」は蛇足だとは思いません。確かに物語のバランスが多少悪くなっているとは思いましたが、この一篇は作者自身がこめた「祈り」そのものなのではないかと思いました。

異世界の論理を解く……という構造からは多少外れてしまっていますが、物語のまとめとして必要なものであったと私も思います。
作者自身の祈り……そうですね、その通りだと思います。

> 「砂漠を走る船の道」「凍れるルーシー」が特に好きです。この本はミステリとして魅力的なだけでなく、絵画を鑑賞しているような静かな表現が素敵だと思いました。

風景の描写が綺麗ですよね。
「凍れるルーシー」では、そんな綺麗な風景と、最後に明かされる狂気とのギャップに驚きました。

リバーサイド・チルドレンも読んだらおそらく感想を書くと思うので、よければよろしくお願いします。

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